あなたに贈るホラー短編小説
「私、家に火をつけらて
殺されそうになったの。
とっても怖かった。
死ぬかと思った。
私の体をね、
真っ赤な炎が撫でていくの。
熱い。
痛い。
助けて。
私は、
何度も心の中で
助けを求めて叫んだわ。
あの火事で死にそうになった私が、
意識を取り戻したのは、
病院のベッドの上だった。
私は、
重度の火傷を負いながらも
生き残ったの。
でも私は、
自分の顔を鏡で見たとき
世の中に絶望したわ。
本当にこれが私なのって……。
もちろん、
私のお腹にいたあなたとの赤ちゃんは、
あの日の火事のせいで
流れてしまったわ。
でも私、
長い入院生活の間、
ずっとあなたに会いたかったの。
あなたにそばにいてもらって、
あなたの声を聞きたかったの」
そう言った亜美の
ろくにまぶたも閉じない
赤くおぞましい瞳から
一すじの涙がポロリと落ちた。
「私、病室の中で
あなたの結婚を知ったわ。
どうして?
私がいるのにどうしてって、
そう思ってあなたを憎んだりもしたわ。
そして私は、
毎日、病院のベッドで横になりながら、
私の人生をこんな風に変えたのは
いったい誰なのだろうと考えたの。
私を憎んでいる人。
私に死んでもらい たい人。
私が死んで得をする人」
亜美が握りしめた果物ナイフは、
僕の首の皮膚を
またさらに切り裂いた。
「私は毎日考えたの。
同じことを何度も何度も。
私を殺そうとしたのは、
いったい誰なのかって……。
でも、
何度考えてみても
私の考えは、
いつも同じ結論で終わってしまうの」
亜美はそう言って、
変わり果てたおぞましい顔を
僕に近づけた。
「私の家に火をつけたのは、
あなたじゃないかって……」