あなたに贈るホラー短編小説
「ありがとう。
私はあなたから
謝罪の言葉が聞きたかった。
ずっとそのことだけが
頭にあって、
私は死ぬに死ねなかった」
亜美はそう言って、
不気味な笑みを浮かべながら、
声を出して泣いていた。
〈 助かった 〉
僕の胸の中に安堵感が広がった。
僕は、
亜美が馬鹿な女であることに感謝した。
もしも彼女が馬鹿でなかったならば、
僕は許されなかったはずだから。
僕は、
声を上げて泣いている
醜い顔の亜美を見つめながら、
これからの二人のシナリオを
頭の中で考えた。
僕を許した亜美が、
僕の体を縛っているロープをほどく。
自由になった僕は
満面の笑みを浮かべ
亜美にゆっくりと近づく。
そして僕は、
亜美の右手に握られている果物ナイフを奪い取って……。
そして僕は……。
泣きはらして、
真っ赤に充血したおぞましい目を
亜美は僕に向けた。
「私はどうしても、
あなたの謝罪の言葉が聞きたかった。
だから私は、
死ねなかった。
私、これで
安心して死ねる」
僕は、
亜美のその言葉にドキリとした。
彼女が口にした言葉は、
僕が思い描いたシナリオとはまるで違う。
彼女は、
もう一度僕とやり直せると思って、
僕の体を縛っているロープを
ほどいてくれるはずなのに……。