あなたに贈るホラー短編小説
僕は恵まれない現実から

目を背けるように、

物語の世界にハマっていった。






僕はたくさん本を読み、

映画を見た。






素晴らしい夢の世界を

作る人たちは、

目の眩むような

贅沢な暮らしをしていることを

僕は知っていた。






〈 いつの日か僕も、

物語を作る人になりたい 〉






僕は工場で

つまらない流れ作業をしながら、

そう思った。






きっとそこには、

大きな夢があると

思ったから……。






でも僕は大人になって、

夢の世界の中に、

本当の地獄があることに

気づかされた。






叶うことのない夢を

追いかけることは、

喜劇を通り越して、

悲劇だと、僕は思った。






夢を見続けていた僕は、

抜け出すことのできない

無限地獄の中で、

三十五歳の誕生日を迎えていた。
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