【短】オンシジウム
空いたホールの周りには次に踊ろうと待機するペアがいる。
女性を誘おうとソワソワする男もいる。
僕の談笑する輪の中からも数人の男が消えた。
再び音が優雅に流れ出した頃、僕の視線は1組のペアに釘付けにされた。
僕より少しだけ年上だろうか?
穏やかな物腰の笑みを浮かべる男性に君は手を引かれ照れたように身を任せていた。
特別ショックを受けた訳じゃない。
怒ってるわけでもない。
悲しいわけでもない。
でも、少しだけその光景が胸に刺さった。
「あれ?彼女、君のフィアンセじゃない?」
「そうだね。」
僕の視線に気が付いた1人が僕の顔色を伺う。
なんてことない風に言う事が、周りに気を使わせてしまったらしい。