悪夢から蛇
「いや、でもさ、もうちょっと他人の視線を気にした方がいいぞ」

 健司は真顔で忠告してきた。

余計なお世話だ。 

 忠告には鼻を鳴らして答え、また視線を空に戻す。

 すると、今度はどたどたと騒がしい足音が廊下から聞こえてきた。

 二つの頭のてっぺんがひょこひょこと廊下を横切る。

廊下側の窓は少し高い位置にあるので、誰かが通っても教室の中からは頭のてっぺんしか見えないのだ。

ただ、背がものすごく高いヤツが通ると首から上だけが見えたりして、それはちょっと面白い光景だったりする。

「こんなとこにいたのか!」

 さっきの健司と同じようなことを言って、新たに光と柚香の二人が教室に入ってきた。

ずっと走り回っていたのか、光の眼鏡はかなりずれてしまっていて、柚香の髪はボサボサに乱れてしまっている。

黒い長髪が顔にかかった柚香の姿は、和製ホラー映画にそのまま出てきそうなほどで、ちょっと怖い。

「放課後にどっか行くときは、ちゃんと俺らに言ってからにしてくれよ。探すの大変なんだから」

 光は黒い太縁の眼鏡をグイッと押し上げ、しかめっ面をしてみせた。
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