眼鏡男子に愛されて


どくどくと、心臓がありえないほどの速さで脈打っているのがわかる。


それはさっきの恐怖とは全く違う、心地よくて、あたたかい、そんな高鳴り。


「……篠宮先輩」


「ん?」


すぐ近くから返事が聞こえることに戸惑いながら、それでもこの手を離したくないと、泉美は少しだけ手に力を込めた。


「どうして、ここに……?」


この中庭はめったに人が来ない。

泉美は桜が好きで、春にはここで一人お花見を満喫したりするが、そんな人は稀だ。


………あのまま、誰も助けに来てくれなくても、おかしくはなかった。


「焦ったよ」


「…え?」


唐突に、そう呟く俊に、泉美は少し顔を上げた。


「今日はいつまでたっても来ないから……もう、来てくれないのかもしれないと思って、焦ったんだ。……でも、落ち着かなくて外を見てたら、瀬野さんが見えて……」


だから、来た。


と、そう言って、再びぎゅうっと優しく抱きしめ直す俊に、泉美は全身が沸騰しそうなほど熱くなっていくのがわかった。


…………嬉しい。


来てくれた。自分のために。

あんなに、息を切らして。


図書室の窓から、中庭が見えるなんて知らなかった。


でも自分を見た瞬間、篠宮先輩が急いで駆けつけてきてくれたのかと思うとそれはもう、どうしようもないくらいに、嬉しかった。



「……っ、篠宮先輩っ!!」


泉美は俊の腕のあたりの服をつかんでいた手を離すと、俊を見上げた。


少し驚いたように目を見開くその顔さえ、愛おしい。

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