sweetlove
拓斗さんに少し待ったもらって帰りの準備をしていると、怜央が声をかけてきた。

「せんぱーい!相手してくれませんかぁ?」と言ってきた。

「あ?無理。帰るし!」と私は言った。

ただでさえ拓斗さんに待ってもらってるのに!

「何でですかぁ?いつも先帰ろうとしますよね?たまには俺の相手してほしいです」って上目使いしてきた。

「わかったわ。じゃあ練習はしないから一緒に帰りましょう」と私は言った。

ほんとは知ってる。私は怖くてたまらないのだ。

怜央と二人きりは色んな意味で耐えられない。

体育館を出ると拓斗さんがいた。

「拓斗さん、せっかく来てもらったんですけど…」私が言うと、

怜央に笑いかけて「後輩?」と聞いてきた。

火花が散りそうなほど、二人はにらみあっていた。

「怜央、挨拶して」と私は言ったんだけど、睨んだまま。

「拓斗さん、彼、優秀なプレイヤーなんです」と私は言った。

「怜央…?聞いたことあるな」と拓斗さんは言う。

「あっ…!」拓斗さんは思い出したように言った。

私は思わず反応してしまう。

「涼から聞いたことあるな」と拓斗さんは言い出した。

「すごいやつがいるって。けど、ウチこうへんかったわ~っていっとったかな?チョイすねで」と拓斗さんは言った。

涼らしい。確かに私も意外だった。

涼になついてた訳ではなかったが、実力は確かに涼に近い才能を持っていた。

「あ?誰?」と怜央は言い出した。

2年半ほどだったが、プロで輝いていた拓斗さんを知らないなんてショックだった。

胸を張ってプロ選手だよって自慢したい。

けど、今はもうプロじゃない。故障で引退に追い込まれた…

もう一度、あの輝いてる、拓斗さんを見たい。

無理かもしれないけど、そう思った。

「涼のお兄ちゃんだよ」とだけ言うことにした。

慌てて背筋を正して勢いよく頭を下げた、怜央。

ほんっとに、分かりやすいだから!

「怜央…くん?練習一緒にするかい?」って優しそうに拓斗さんは言った。

『いいの?!』って顔で私の方を見る怜央君。耳としっぽが見えそうだった。

「もちろんよ‼3人でやりましょ?」そう私は言って寄り道することになった。

ストリートで一般の人も使える、バスケのコートが近くにある。

私たちはそこに向かった。

「二人とも!かかってこい!」ってヤル気満々でドリブルしている拓斗さん。

やっぱりかっこいい。ボールを持つとほんとに目がキラキラし始めた。

私たちは二人して勢いよく、拓斗さんめがけて走った。

けど、ものの、見事に交わされてしまった上に、あっさりシュートを決められてしまった。

2対1だったのに!

流石としか言いようがない。

こんなにもバスケを愛して、ブランクはあれど、衰えていない拓斗さんを久しぶりに見れて嬉しかった。

そして自分に誓いを立てた。

もう一度、拓斗さんをプロとして表舞台に立たせると。

そのために自分が正直、何をどうしていいのかはまだわからないけど。

それはこれから考えていこうと思う。これからも拓斗さんの隣でたくさん笑って、一緒にいたいから。

そんなことを考えていたんだけど…

怜央は目を輝かせて、

「…スゴい‼また一緒にしてくれますか?」って興奮ぎみに言っていた。

「もちろんだよ‼いつでも言って」と笑いかける拓斗さん。

そんな二人を見て、私はホッと胸を撫で下ろした。

最初は睨み合っていたし、どうなることかと思ったけど。

大丈夫そうだわ。
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