おにいちゃんの友達
あゆみおばちゃんは前髪を掻き上げた。

そんな風な仕草をするおばちゃんは初めて見たような気がする。

「ううん。付き合ってないわ。その当時はただの仲のいい男友達って感じだった。」

「ええっ。二人で出かけてるのに?絶対向こうはおばちゃんのこと好きだったんじゃない?」

あゆみおばちゃんは、穏やかに微笑んで紅茶を飲んだ。

「彼には彼女がいたのよ。」

ドクン。

彼女がいた・・・

マサキの顔が私の頭の中に浮かんだ。

そしてマサキの横には私の知らない女の人。

こんなにも幸せな話なのに、彼女がいたっていうだけで一気に奈落の底に突き落とされるような衝撃が走る。

「そうなんだ。」

しばらくの沈黙。

「おばちゃんはその男性のことどう思ってたの?ただの男友達っていうだけ?」

「・・・そうね。きっと好きだった。」

きっと好きだった。

まるで人ごとみたいな言い方をするおばちゃんが、なんだかとても切なく感じた。

私にはまだよくわからないけど、誰にも言えないような深い気持ちがそこにあるような気がした。

「で、二人はどうなったの?」

彼女のいるマサキとおばちゃんの男友達とがわずかにだぶる。

これからおばちゃんの話の続きが、うまくいってほしいと願わずにはいられなかった。

「彼女がいるって知ってからも、二人で会う機会は何度かあった。私から誘うこともあったし、彼から誘われることもあった。二人で会う時はとても楽しかったし、お互いがお互いをとても大事に思っていることも感じていたわ。この関係がずっと続けばいいって願ってた。それ以上を求めちゃいけないって思ってたし、ただそれ以下の関係も嫌だった。結構私って若い頃はわがままだったのよ。」

それをわがままというのは、ちょっと違うと思った。




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