熱恋~やさしい海は熱砂の彼方~
ズブ濡れの彼が微笑んだ。まるで、あたしの顔を見てホッとしたように。

あたしは傘をさすと玄関を出て行って、家の入り口の門扉を開けると、ズブ濡れの彼に傘をさしかけてあげた。思いがけない相合い傘だった。

「傘……持ってこなかったんだ?」

「だって天気予報じゃ、降るとか言ってなかったし」

「とりあえず、中に入んなよ……そんなズブ濡れじゃ、風邪ひいちゃうし……」

「いや、でも、こんなズブ濡れで家に上がったりなんかしたら、お前の家のヒトに迷惑かけちまう」

「親は共働きだから、今うちにはあたししかいないよ。それに家の前なんかにいつまでも立たれてたんじゃ、近所のヒトたちに何事かと思われちゃう。だから入って」

「あ、あぁ…」

遠慮がちな彼を家に上げると、いつのまにか停電状態も復旧していた。

あたしは彼の濡れた服を乾燥機で乾かしにかかる。その間、彼は1枚のバスタオルを肩からまとい、もう1枚のバスタオルを腰のまわりに巻いていた。

そのまま放置しておくのもどうかと思ったし、とりあえず乾燥機の中の彼の服が乾くまでのあいだ、彼と話をすることにした。


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