熱恋~やさしい海は熱砂の彼方~
やがて……、
キ~ン、コ~ン、カ~ン、コ~ン…
鳴り始めたチャイムの音に少しも慌てた感じもなく、まるでファッションショーのモデルみたいな足取りで美帆が教室に入ってきた。
みんな訊きたいことは山ほどあったと思う。だけど、もうチャイムが鳴ったし、今はおとなしく着席して先生の到着を待つしかなかった。きっと美帆のほうもアレコレ訊かれるのをウザイと思い、それでわざと遅刻ギリギリで登校したんだろうと思う。
だけど、たとえ何も語らなくても、黙ってまっすぐに教室の前を見つめる彼女の表情には、あたしには怖いものなんてなにもないのよ、みたいな堂々としたオトナのオンナの余裕が感じられた。
このときあたしは、もう美帆についての情報はなにもいらないと思った。
ガラガラッ…
ほどなく教室に入ってきたジョージ先生も、今までと全然変わらないジョージ・スマイルをみんなに見せてくれている。
「起立。礼。着席」
あたしは学級委員のいうとおりにしながらも心の中で思っていた。美帆にせよ、先生にせよ、あれだけのことがありながら、なにもなかったような顔をしてフツーに過ごせるあたり、それこそ、まさにオトナがオトナであることの何よりの証しなんだ、と。