熱恋~やさしい海は熱砂の彼方~
気がつくと、喜屋武みさきをビンタしていた。生まれてはじめて誰かを叩いた。


みんなの視線が集まっているのが分かった。


いたたまれず、あたしはカフェを飛び出した。

でも、それはみんなに見られるのがイヤだったからじゃない。喜屋武みさきと同じ空間にいるのがイヤだったからだ。


「なぎさ!」


背中で彼が呼んでいるのが聞こえた。でも感情の整理がつくまで待ってほしかった。

今は誰とも話したくない。

しばらく一人きりにしてほしかった。



部屋に帰って、頭からフトンをかぶって寝ているあたしを、夜になって仕事から帰ってきた母さんが見て、朝のまんまじゃん、って思ったみたいだったけど、今朝と今とでは全然ちがう。

今朝は、航平くんにひどいことをされた喜屋武みさきをかわいそうだと思っていた。

だけど、今は同じ喜屋武みさきに対して、押さえきれない怒りと憎しみを抱いていた。

そして悲しみと、悔しさと、淋しさとで、胸が張り裂けそうに痛かった――――

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