熱恋~やさしい海は熱砂の彼方~
フトンの中であたしは大声を上げた。
なんで? 夕方、あんなことがあったばかりなのに…、それからまだ何時間も経ってないのに、なんであたしンちに来れるの?
「なぎさちゃんのお母さん、こんばんは」
「アレ? みさきちゃん、そのほっぺたどうしたの?」
母さんは声が大きいから、2階にいるあたしにもフツーに声が聞こえる。
「あぁ、コレですか? みさき、なぎさちゃんにイジワルしちゃって、ソレで叩かれちゃったんです」
喜屋武みさきのほうも、演劇部の看板女優だけあって、腹式呼吸の声が2階にまでフツーに聞こえてくる。
「えっ、うちのなぎさに叩かれたの!?」
母さんがすっとんきょうな声を上げた。ふだんおとなしいあたしが、誰かを叩いたのが信じられないということだろう。
ひょっとして……とあたしは思った。喜屋武みさきは、あたしに叩かれたことを、母さんに言いつけに来たのかもしれない。
ところが彼女は意外な返事をした。
「でも叩かれるようなことしたみさきが悪いんです。だから、なぎさちゃんに謝って、仲直りしたいんです」