熱恋~やさしい海は熱砂の彼方~
別に“走る”という運動じたいが苦手なわけじゃない。足はけっこう早いほうだし。
イヤなのは、走ると胸が揺れるのが死ぬほど恥ずかしかったからだ。縄跳びをするときだってもちろん揺れるし。
一番文句が言いたいのは、全員参加の80M走と大縄跳びにプラスして、各学年1人ずつの女子しか参加しない1000M走を、よりにもよって、このあたしがしなきゃいけない、ってことだ。
80Mなんてアッという間だ。胸が揺れている時間もアッという間だ。
それに比較して1000M走は10倍以上もある。10倍以上も長い時間、みんなに胸が揺れているところをさらし続けないといけないとかと考えると、あたしにとって1000M走は地獄の刑罰そのものだった。
おまけに1000M走は各学年から男女1名ずつしか参加しない――つまり全参加人数が6人しかいないから、それだけ1人1人が目立って注目が集まるということだ。
“走る”という動作のときより“縄跳び”のときのほうが、胸は大きく揺れると思うけど、大縄跳びの場合はみんなで縦列に並んで飛ぶから、列の中のほうへ入っていれば、それほど注目されないですむ。
その点から大縄跳びと比較してみても、胸の大きいあたしにとって、いかに1000Mが過酷な種目なのか、ってことだ。