熱恋~やさしい海は熱砂の彼方~
「じゃあ、まだ完結させちまわないほうがいいんじゃねぇのか?」

「え? なんで、やっと完結させたのに」

「なぎさはあのままで満足なのか?」

「ウ~ン……イヤ。やっぱり最初の予定どおり、ホントは長編にして続きを書き足していきたいと思うけど……」

「そっか。ならまだ完結させるな。…つーか、まだ完結できねぇだろ? まだ続きがある。…つーか、まだはじまったばかりだろうが」

「まだ……はじまったばかり……」

あたしには彼の言っている意味がよく分からない。短編小説として完結させるだけでも、相当な苦労をしたから、今はまだそのあとのことまで考えられる余裕がない。

「アノまりなってコさ、まだナゾの転校生と1回もデートしたことねぇだろ? 純愛小説なのに1回もデートシーンが出てこねぇなんて、ちょっと淋しくね?」

「うん、たしかに……」

たしかに淋しい。あたしも本当はそう思っていた。

アノ小説の主人公・まりなはもう一人のあたし。あたしは今まで、みさきちゃんたちの目を気にして、人前で航平くんと会うのを避けてきた。だからデートもまだ、ただの1回もしたことがない。そして未体験のことだから小説にも書けなかった


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