熱恋~やさしい海は熱砂の彼方~

「お前の気持ちは分からんではないが、死んだヒトのことを、そういうふうに言うのはいかがなものかと思うぞ」

「先生には俺の気持ちは分かりませんよ。とにかくおやじのことはもう二度とクチにしないでください」

「オーケ-。じゃあ、お前の席は窓際の一番後ろだから、とりあえず席に着いてくれ」

「はい」と返事もせずに、黙って言われたとおりの席に向かう比嘉航平くん。

海乃中学は湾岸沿いに建つ学校で、教室の中で一番窓際の海側の席のことを“オーシャン・ビュー・シート”とみんなが呼んでいた。

あたしは、オーシャン・ビュー・シートに着席すると窓の向こうに広がる海原へと目を向ける彼の様子をずっと見ていた。まるで動物園の珍しい動物でも見るかのように。


このとき、もうみんなの中には美帆や先生への興味はなかったんじゃないかと思う。みんなの興味はきっと東京から来た不機嫌な転校生へと向けられていたはずだから。

実際、休み時間になるとみんな……と言っても女子ばかりだけど……みんなは美帆ではなく転校生のほうに集合していた。

あたしもみさきちゃんに一緒に行こう、と誘われたけど、まるでバーゲンセールの商品に群がるオバちゃんのように、彼に向かって押しかけるのにはちょっと抵抗があったから、自分の席に座ったまま聞き耳を立てていることにした。

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