熱恋~やさしい海は熱砂の彼方~
だけど、あたしはアレからもう何日も経ったというのに、いまだに「ありがとう」のひとことさえ言えずに、結局、いつも遠くから見ていることしかできないでいた。
それどころか歩いていて、たまたま前方に彼が見えたときなど、わざと遠回りをしてしまうくらい彼の存在を意識しまくっていた。
もうこれはまちがいなく恋だった―――
そんな6月はじめのある日のこと、ジョージ先生がみんなに“封筒”を配布した。
「はい、みんなよく聞け~。金曜日の昼休みに業者さんが水着とか水泳キャップなんかの販売にくる。購入希望者はコノ封筒に代金を入れて各々買いに行くようにな」
そういえば来週はプール開きだ。イヤなイヤなプール開き。
ハッキリ言ってあたしはプールが嫌いだ。理由は、ドライヤーもないところで髪を濡らさないといけないこと、そして水着姿にならないといけないことがイヤだったから。特に2番目の理由は、あたし的には深刻だ。
夜、自分の部屋で、去年の最後のプールの時間以降、タンスの奥にしまいっぱなしになっていた紺色のスクール水着を引っ張り出して、恐る恐る試着してみる。
ハァ…、と思わずため息が漏れる。
他の部分はそうでもないのに、胸だけがキツかったからだ。