熱恋~やさしい海は熱砂の彼方~
今日は3時に用事があるから、2時半まででゼッタイ帰ると部長には伝えてある。

あたしの目は、舞台の上のみさきちゃんと、体育館の壁に付けられた大きな時計とを行ったり来たりしていた。

もう約束の2時半はとっくに過ぎている。

だけど、みんながまじめにやっている中、3年生のあたしがひとりだけ先に帰りますなんて言えないし。


だから―――――


だから、それから1時間後、部活が終わるなり、マッハのスピードで制服に着替えたあたしは、衣装のお姫様のフリフリドレスを大事そうに扱いながら、ゆっくりゆっくり脱いでいる美少女・みさきちゃんに向かって、早口で言って駆け出した。

「みさきちゃん、バイバイっ」

「あっ、待って、なぎさちゃん」

演劇部・看板女優の腹式呼吸のよく通る声が、あと3歩で部室から出て行こうとしていたあたしを呼びとめた。

できれば今日の部活は休みたかった。それなのにちゃんと出てきてあげたんだから、いーかげんにあたしを解放してよっ。

「ゴメン!あたし、今日、用事あるんだっ」

「じゃなくてファスナー全開だって」

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