熱恋~やさしい海は熱砂の彼方~
さっきまでサウナのようにクソ暑い室内にずっといたせいか、頬に当たる風も、制服のすき間から吹き込んでくる風も、スカートをひらひらと舞い上げる風も、まるで自然のクーラーみたいに爽快だった。
心地よい風を全身に感じながら、胸が揺れるのもかまわずに、わき目もふらずに向かった先は、街で一番大きな本屋さん。
うわっ、お店の外まで行列ができてる…。
しかも並んでるは、ティーンの女のコが圧倒敵に多い。私服のコに混じって、いろんな学校の制服も見えたけど、あたしと同じ制服…つまり同じ中学のコも何人かいた。
あたしは急いで係の人から整理券をもらうと、ここまで全力疾走で走ってきたのと、興奮のせいで、汗ばんでしまった右手に握り締めて、長蛇の列の最後尾についた。
もうすぐ…もうすぐ神さまに会えるっ…。
あたしの心臓がバクバクしていた。
この行列は、あたしたちの神さま――“魚住(ウオズミ)とと”の新刊本発売記念サイン会。
魚住ととは、もともとはOLやりながらケータイ小説を書いていた人なんだけど、去年、代表作『湘南人魚』が映画化されたのをきっかけに大ブレイク。一躍有名人になったシンデレラ・レディ。