熱恋~やさしい海は熱砂の彼方~
「お前、笑うと“えくぼ”ができるのな」
えくぼのこと知らなかったの? そっか。あたしも今まで比嘉くんの前で笑顔を見せたことがないから知らなくてトーゼンか…。
「コレ、最初に撮ったほうの写真だけど、この写真の安座間は、ホント、いい顔してるよ」
「え…」
美少女のみさきちゃんならともかく、あたしは今まで“いい顔してる”なんて、一度も人に言われたことがない。
それに、こんな顔をしてうつっている写真は、小さい頃からのアルバムを全部探してみてもおそらく1枚もないと思う。
顔を鏡で見たときだって、自分のこんな顔は見たことがなかった。
きっと憧れの神さまとやっと会えたのが、よっぽど嬉しかったんだと思う。
自分でも気がつかないような…、あたしの中の一瞬を見つけて、写真の中に収めてしまうあたり、さすがは新聞部の敏腕記者だって、あたしは素直に関心した。
「あのときさ、あのサイン会の後、俺、用事あったから帰ろうとしてたんだけど、ふと見たら安座間があんまりいい顔してるもんから、思わずシャッターを切ってたんだ」
「そうだったんですか。でも、もう1枚は?」
「2枚目に撮ったのは、なんか作り笑顔っぽくてダメだった…。えくぼだって出てねぇし」