熱恋~やさしい海は熱砂の彼方~
そう言って、男子トイレに向かう彼の後ろ姿を見て、あたしはホッと胸をなでおろす思いだった。
「オハヨー♪」
教室に入ると、みさきちゃんがいつもと同じくったくのない笑顔を見せて言った。
あたしは「おはよう」と作り笑顔で応えながらも、内心は、イタズラがバレないかドキドキしている小っちゃい子どもみたいな落ちつかない気持ちだった。
「あ~、もぅ、だるぃ。なんで夏休みなのに学校に来ないといけないワケ?」
斜め前の席のなみが、下敷きをうちわ代わりにパタパタやりながら言う。
あたしやみさきちゃんは演劇部だから夏休みも部活で学校に来ていたけど、放送部のなみにとっては今日の登校日が、よほどめんどうくさかったみたい。
「だって今日は平和学習の日だからぁ」
なぜか、訊かれたあたしじゃなくて、みさきちゃんが答える。
「バーカ。今日は先生の給料日だからじゃん。あたしが言ってんのは、なんでオトナの都合で巻き添えくって、みんな夏休みなのに学校に行かなくちゃいけないの?ってコトっ」
「へぇ、今日、給料日なんだぁ。そーいえばママに聞いたことがあるような気がするぅ」