恋=結婚?
 朝の光の中目が覚める。ココ……どこ? 横を見て思い出す。あ、智也だ。智也……。
 可愛いなあ。無邪気に眠っている。智也! ほっぺをくいっと押してみる。起きないなあ。
 今度は両頬をぐいっと押して見る。か、可愛い! ちょっと前まで学生してたんだもんね。可愛いよね。
 今度はなにしよう。……鼻でも摘まんでみようかな?
 そーっと手を鼻に手を近づけたら、ばさっと手を掴まれてしまった。

「梨央奈、さっきからなにしてるの?」

 ば、ばれてた? 智也は手をすぐに離してはくれたけど……どっから起きてたの?

「い、や、あの……」
「頬が痛いんだけど」
「え? あ、ごめん! そんなに強くしたつもりじゃなかったんだけど」

 思わず手が出ていて智也の頬を撫でるように触った。

「どんなにしたつもり?」

 撫でていた手を掴まれてグイッと引き込まれた。智也の胸の中に入ってしまった。智也の香りを胸いっぱいに吸い込む。

「ど、どんなって。その……あの……」
「次は何するつもりだったの?」

 優しい問いかけについ本当の言葉が出てくる。

「鼻でも摘まんでみようかな? なんて……」
「ふーん。こんな感じ?」

 そう言って智也は私の鼻を摘まんでいる。しかも、力強いよ!!

「痛っ!! 痛い! 痛いよお!!」
「もうイタズラしない?」
「しない! しない! から、許してお願い!!」

 六つも年が下の男の子相手に惨敗だ。勝てる気がしない。しないよお!!

「じゃあ、俺が朝飯用意してるからシャワーを浴びてきなよ」
「え、でも」
「俺は昨日入ったし」
「じゃあ、お言葉に甘えます」

 身体の下にはバスタオルが敷いてあった。……智也準備してたんだ。そのバスタオルを体に巻きつけて服と下着抱えこんで智也の家のバスルームに入る。バスルームも豪華でおしゃれな感じだった。
 今回は痕はどこにもない。智也、今回は痕をつける気がなかったみたい。……ちょっと残念かも。会社で着替える時にはドキドキするけれど、そこに智也の痕ががあるって思うだけで気持ちが違ってくる。実は私喜んでいたのかも……?
 熱めのお湯を身体にかけながらボゥと考え事。智也にとって私とは何なのか? 堂々巡りして答えなんて出ない質問の答えを求めるものじゃない。私は諦めシャワーを止めてバスルームを出た。が、は・・れ? 身体がくらっと揺れて目の前が真っ白になった。バタン! 大きな音を立てて洗面所に倒れこむ。き、気持悪い……。
 どうやらのぼせてしまったみたい。

「梨央奈! 大丈夫か?」

 洗面所の音を聞きつけて智也が駆けつけてくれた。

「梨央奈? 大丈夫か?」

 そのまま倒れている私を抱きかかえた。

「だ、大丈夫。ただのぼせちゃったみたいで」

 はあ、と息を吐き出し智也は私の身体をバスルームに戻した。シャワーで水を足元にかけてくれる。気持ちいい。

「長いと思ったら」
「ちょっと考え事してただけ」

 冷たい水に冷やされて意識がはっきりしてきて気がついたんだけど、私何も着てないんだけど……。身体の向きを少し変えて智也に抱きつく格好をしてみるけれど……今さら遅いよね。

「梨央奈。もう昨日全部見てるのに……」
「え、や、あ、うん」

 それでも恥ずかしいの! 智也はと見ると智也の方を見ると……あ、シャツがびしょ濡れになっている。お風呂上りの私を抱きかかえてさらには水まで出しているから。

「そ、そろそろ大丈夫だよ。ありがとう。それより智也が濡れちゃって……」
「いいよ着替えたら済むことだから」

 智也は水に濡れながら私を介抱してくれた。智也寒くなってない?

「じゃあ、立ち上がれる?」

 そっと優しく起き上がらせて、立ち上がらせてくれる。

「うん。ほら。ね」

 恥ずかしいので、バスタオルを手にすると体を隠すように持つ。

「だから、今さらだって」

 そっと私のおデコにキスをして

「じゃあ、俺は出るから。気をつけて」
「うん。ありがとう」

 智也はバスルームから出て行った。私はバスタオルを巻き直す。ふうー。また失態を見せてしまった。
 どうしてこうもドジばかり。鏡の中の自分を見つめる。
 こんな私をどうして智也は? 疑問ばかりが浮かぶ。私ってなんなのだろう? で、でも聞けない。事実を聞きたくないし、聞いたところでもう智也から離れることなんて考えられない。智也はもう身体の一部みたいに私の胸の中にいる。もうすっかり薄くなってしまった胸の痕のところにしっかりと見えない痕を残している。もう消せない、消えない痕が。
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