恋=結婚?
 お店は喫茶店などではなく美容室だった。どこまで本気の見合いなの? ていうか、これ? もしかして今日とか明日の話なの? 美容室までくるって?

 父は何やら美容師さんに携帯の画面を見せている。どうやらこんな風にみたいな話らしい。もう! 私に見せないってどういうことよ?

 それから何やら勝手に髪を切られてパーマがかけられている。確かに座ってるけど……お茶も出してくれてるけど……文句を言う相手である父は完成時間を聞いてさっさと携帯片手に出て行ってしまった。

 美容師さんは見合いの話には触れないで髪質の話や一般のニュースなど当たり障りのない会話でもたせている。父の行動で私が無理やり連れてこられたことを察しているんだろう。
 パーマか。女子大生の頃に少しの間かけていた。あまり派手なことは当時から嫌いだったのでフワリとゆるいパーマにした。

「あ、あのこれってどんな?」

 美容師さんに不安をぶつけてみた。髪を切ったのは少しだったけど、さすがにあまりすごいパーマは困る。まあ、また紗子が絡んでいるんだろうし、そんなひどい出来にはならないだろうけど、完成形を知らないのは不安だった。

「あ、ちょっと待ってくださいね」

 美容師さんは雑誌をパラパラっとめくっている。似たような髪型が見つかったようだった。そのページを開いて見せてくれた。

「あ」

 可愛い。

「どうです。いいですか?」

 美容師さんはさすがに本人の確認なく遂行していいのか不安になったみたいだった。

「あ、はい。いいです」

 私の気分は上がる。父には申し訳ないけれど見合いは即刻断るつもりだった。どうせ相手はたいしたことないはず。二十九の残り物の私と見合いするんだ相手も相当な残り物だろう。文句のいいようはあるはず。
 可愛いワンピースにこの髪型。どうやって智也と出かけるかそれしか考えてなかった。浮かれて機嫌が良くなった私に安堵した美容師さん。

 智也と思い描くお出かけコースにはあのホテルも入っていた。
 だけど! この事態をどう説明したらいいんだろうか。お見合いしたなんて言えない。ふーんとか軽い言葉で流されるのも傷つくし、自分がお見合いしてしまったことも告げられない。なんて言おうかと、悩んでいたら美容師さんは

「じゃあ、化粧いったん落としますねえ」
「あ、はい」

 と条件反射で答えたものの………ん? 落とすって? 昼休みの香川さんが思い出される。あ、あれ、するの?
 美容師さんは素早く私の薄い化粧を落として私の顔を作り上げてくれた。
 鏡の前の私の顔は二倍には仕上がっている。派手さ二倍の私に。出来上がる頃には父も現れた。

「お、さすが紗子だなあ」

 お父さん褒める相手が違うから。もしくはそちらが正解か。影で操っていた紗子の勝利だね。

「あーもういい時間だ。着替えに帰れるか?」

 そんなこと私に聞かないでよ! やっぱりお見合いは今日だったのね。

「とりあえず帰ろう」

 ここまで来てさすがに行かないとは言えない。やはり相手を見て断わるしかないないだろう。
 出来るだけアラのある人でありますように。
 何時の間にか私の願いは変わっている。

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