恋=結婚?
エレベーターを降りて、タクシーに乗り込んだ。智也のマンションの近くの目印になる場所を告げる。
夜のイルミネーションが通り過ぎて行くのを眺めながら携帯を取り出す。そう言えば父がずっとそばにいたし聡さんと会っていたので確認してなかった。
携帯には一通メールが来ていた。胸がギュッと締めつけられた。『ここに来て』という智也からのメールだった。こことは智也のマンションだと思う。地図も何も添付されていない。
智也になんと返事をすればいいか迷っている間に智也のマンションに着いてしまった。タクシーを降りて合鍵でマンションの自動ドアを開ける。エレベーターの扉も開けて智也の部屋へと向かう。
智也に会いたと思ってそのままここまで来てしまった。この格好のままで……なんて言えばいいんだろう。そして、智也が私を見ても何も言わなかったらどうしよう。髪から化粧、服も靴もいつもとは違っている。智也が違いに気がつかないはずはない。どうしよう。
迷っている間にエレベーターは到着してしまった。私はエレベーターを降りて智也の部屋まで歩いて行く。どうしよう。どうしよう。どうしよう。
迷っている間に部屋の前まで来てしまった。
仕方ない。鍵を取り出して部屋の鍵をあける。そうだよね。どんな関係だっていい、智也のそばにいたいんだってさっき決めたじゃない。ガチャっと部屋のドアを開ける。
あ、インターフォンを押せばよかった。智也何してるんだろう。部屋にいるのは確かだった。廊下の奥のリビングに明かりがついている。ドタドタって足音が聞こえてきた。ガチャっとリビングのドアがあく。リビングの明かりと共に智也がこちらにやってきた。
「なんで連絡なしで……」
「ご、ごめんなさい」
あ、や、やっぱり連絡なしに部屋に勝手に入って来たからだ。智也は怒っている。
「か、帰るね」
弱気な私が顔を出す。私は今開けたドアから廊下に出ようと玄関のドアを開けようとする。
ドン!
智也が玄関のドアに手を着いた。やっぱり怒ってる。
「梨央奈、メール見たの?」
「あ、うん。そのさっきタクシーの中で……。ごめん……」
「俺ここに来てって言ったのになんで帰るの?」
あ……そうだった。あれ? じゃあ、智也は何に怒っているの?
「あ、いや」
「とにかく、こっち向いて。話できない」
「う……ん」
智也の手に挟まれてドアと智也の間にいる。その場でくるりと向きを変える。智也が近くにいる。胸はドキドキと高鳴る。こんな状況なのに。怒って真剣な表情の智也に見とれている場合じゃないのに。
「なんで連絡なしなの? それになんでこんな格好してるわけ? 化粧までいつもと違う」
やっぱり気づいた。気づくよね……。ちょっとホッとしてる私がいる。智也はなぜか怒っているけど……それとも、もしかして? なんて考えて嬉しくなってみたり。
「梨央奈。聞いてる?」
「あ、うん。ごめんなさい。父がずっとそばにいて……」
「その格好の理由は?」
「あ、や……お見合い……」
自然と声が小さくなる。お見合いしてと怒られないことを恐れている。智也にとっての私の居場所って……。
「……っなんで? なんで見合いするんだよ」
「お父さんが……その無理矢理……」
「無理矢理にしてはその格好は?」
「あ、その、仕方なく?」
話をしていて自信がなくなってきた。私なんで見合いしちゃったんだろう?
「ふーん」
「と、智也、あのドアが痛い……」
ドアに押し付けられていて背中が痛くなってきた。
智也はガバッと私の体を引っ張り今度は玄関の壁に追い詰めてきた。
「で? 見合いして来たんだ」
「あ、う……ん」
「それもしかたなく?」
「あ、いや、あの、うん」
あの時の自分の気持ちを素直に智也には言えない。結婚しないでもいいって決心つけるまで時間がかかったなんて。
「梨央奈……俺って梨央奈の何?」
「え?」
そ、それを聞きたかったのは私の方なのに……私って智也の何? って……。
「ただの同僚? 教育係を任された新人?」
「違う!」
「だったら何?」
「智也は……大事な人……智也と一緒にいたいの。三十になろうが何だろうが……関係ない。私は智也と一緒にいたいの」
「なら何で……見合いなんてするんだよ!」
「そ、それは……」
智也の眼差しは真剣だった。素直に言おう。どんな答えが返って来たって、私は智也から離れない。離れられない。
「お見合いね、あのホテルのレストランだったの」
「え?」
「智也と最初の夜を過ごした……そこでね……私気持ちが揺らいでた。無理矢理連れて来られた見合いだったけど……」
「梨央奈……?」
さっきまでの強い眼差しの智也はいなくなった。智也は不安げに私を見つめている。
「でも、気づいたの。あの場所で……ううん。どこにいたって一緒に居たいのは智也だって。智也と一緒に居たいんだって。智也に会いたいって……そう思ったら、そのままここに来てた」
「梨央奈……」
「あ、あの……だからって、智也とどうこう言ってるんじゃないのよ。私が一方的に一緒に居たいだけで……その……今までのままでいいんだから」
「俺たちの関係どう思ってたわけ?」
「え? あ、あの……その……わからない……」
「わからない……って」
「でも、いいの今までのままでいいんだから。私はそれで十分なんだから」
智也は私の答えに戸惑ってるみたいだった。智也困ったのかな?
「見合いはどうするんだ?」
「断ってきたよ」
「なんて言ったんだ?」
「好きな人がいるからって」
「好きな人がいるからねえ」
智也の複雑そうな表情は変わらない。やっぱり迷惑だったのかな?
「あの、でも、私は今のままでいいんだからね!」
「今のままねえ」
智也はますます複雑そうな表情をしている。なんと言えば伝わるんだろう。ただ一緒にいたいだけなのに。他には何も望んでないのに。
「そう今のまま」
「……」
「智也?」
智也は戸惑った顔のままでこちらを見ている。目を合わせられない私はうつむき加減でいた。その私の顎を智也の手が持ち上げる。智也の視線と交差する。けれど智也の気持ちはわからない。智也何を考えてそんな顔をしているの?
「本当に梨央奈は……全く……わからないよ」
「全くって!」
私の方がわからないんだけど。全く!
智也は私の顎から手を離してギュッと私を抱きしめた。
「全く!」
全くってなによお!
「俺の側にいろよ。もうどっか行くなよ。勝手に」
「う、うん。ごめん……なさい」
これじゃあどっちが年上なんだかわからないじゃない。
でも心地の良い言葉。ずっと智也の側にいてもいい気がしてくる。
智也の腕の中、心はすうっと満たされていく。そこに
グルギュウー
はへ? 盛大なお腹の音が鳴り響く。
「プッ」
「なんだよ! ずっと梨央奈を待ってたから仕方ないだろう?」
珍しく顔を赤く染めた智也がいる。ずっと待ってたからか……いい気分になっていく。
「はい。なんか簡単に作るね」
「えー、梨央奈はホテルの料理でえ?」
「文句は聞きません。さあて、なにがあったかなあ」
料理をしてしまえば後はいつもの雰囲気に戻ってしまうはずだ。
夜のイルミネーションが通り過ぎて行くのを眺めながら携帯を取り出す。そう言えば父がずっとそばにいたし聡さんと会っていたので確認してなかった。
携帯には一通メールが来ていた。胸がギュッと締めつけられた。『ここに来て』という智也からのメールだった。こことは智也のマンションだと思う。地図も何も添付されていない。
智也になんと返事をすればいいか迷っている間に智也のマンションに着いてしまった。タクシーを降りて合鍵でマンションの自動ドアを開ける。エレベーターの扉も開けて智也の部屋へと向かう。
智也に会いたと思ってそのままここまで来てしまった。この格好のままで……なんて言えばいいんだろう。そして、智也が私を見ても何も言わなかったらどうしよう。髪から化粧、服も靴もいつもとは違っている。智也が違いに気がつかないはずはない。どうしよう。
迷っている間にエレベーターは到着してしまった。私はエレベーターを降りて智也の部屋まで歩いて行く。どうしよう。どうしよう。どうしよう。
迷っている間に部屋の前まで来てしまった。
仕方ない。鍵を取り出して部屋の鍵をあける。そうだよね。どんな関係だっていい、智也のそばにいたいんだってさっき決めたじゃない。ガチャっと部屋のドアを開ける。
あ、インターフォンを押せばよかった。智也何してるんだろう。部屋にいるのは確かだった。廊下の奥のリビングに明かりがついている。ドタドタって足音が聞こえてきた。ガチャっとリビングのドアがあく。リビングの明かりと共に智也がこちらにやってきた。
「なんで連絡なしで……」
「ご、ごめんなさい」
あ、や、やっぱり連絡なしに部屋に勝手に入って来たからだ。智也は怒っている。
「か、帰るね」
弱気な私が顔を出す。私は今開けたドアから廊下に出ようと玄関のドアを開けようとする。
ドン!
智也が玄関のドアに手を着いた。やっぱり怒ってる。
「梨央奈、メール見たの?」
「あ、うん。そのさっきタクシーの中で……。ごめん……」
「俺ここに来てって言ったのになんで帰るの?」
あ……そうだった。あれ? じゃあ、智也は何に怒っているの?
「あ、いや」
「とにかく、こっち向いて。話できない」
「う……ん」
智也の手に挟まれてドアと智也の間にいる。その場でくるりと向きを変える。智也が近くにいる。胸はドキドキと高鳴る。こんな状況なのに。怒って真剣な表情の智也に見とれている場合じゃないのに。
「なんで連絡なしなの? それになんでこんな格好してるわけ? 化粧までいつもと違う」
やっぱり気づいた。気づくよね……。ちょっとホッとしてる私がいる。智也はなぜか怒っているけど……それとも、もしかして? なんて考えて嬉しくなってみたり。
「梨央奈。聞いてる?」
「あ、うん。ごめんなさい。父がずっとそばにいて……」
「その格好の理由は?」
「あ、や……お見合い……」
自然と声が小さくなる。お見合いしてと怒られないことを恐れている。智也にとっての私の居場所って……。
「……っなんで? なんで見合いするんだよ」
「お父さんが……その無理矢理……」
「無理矢理にしてはその格好は?」
「あ、その、仕方なく?」
話をしていて自信がなくなってきた。私なんで見合いしちゃったんだろう?
「ふーん」
「と、智也、あのドアが痛い……」
ドアに押し付けられていて背中が痛くなってきた。
智也はガバッと私の体を引っ張り今度は玄関の壁に追い詰めてきた。
「で? 見合いして来たんだ」
「あ、う……ん」
「それもしかたなく?」
「あ、いや、あの、うん」
あの時の自分の気持ちを素直に智也には言えない。結婚しないでもいいって決心つけるまで時間がかかったなんて。
「梨央奈……俺って梨央奈の何?」
「え?」
そ、それを聞きたかったのは私の方なのに……私って智也の何? って……。
「ただの同僚? 教育係を任された新人?」
「違う!」
「だったら何?」
「智也は……大事な人……智也と一緒にいたいの。三十になろうが何だろうが……関係ない。私は智也と一緒にいたいの」
「なら何で……見合いなんてするんだよ!」
「そ、それは……」
智也の眼差しは真剣だった。素直に言おう。どんな答えが返って来たって、私は智也から離れない。離れられない。
「お見合いね、あのホテルのレストランだったの」
「え?」
「智也と最初の夜を過ごした……そこでね……私気持ちが揺らいでた。無理矢理連れて来られた見合いだったけど……」
「梨央奈……?」
さっきまでの強い眼差しの智也はいなくなった。智也は不安げに私を見つめている。
「でも、気づいたの。あの場所で……ううん。どこにいたって一緒に居たいのは智也だって。智也と一緒に居たいんだって。智也に会いたいって……そう思ったら、そのままここに来てた」
「梨央奈……」
「あ、あの……だからって、智也とどうこう言ってるんじゃないのよ。私が一方的に一緒に居たいだけで……その……今までのままでいいんだから」
「俺たちの関係どう思ってたわけ?」
「え? あ、あの……その……わからない……」
「わからない……って」
「でも、いいの今までのままでいいんだから。私はそれで十分なんだから」
智也は私の答えに戸惑ってるみたいだった。智也困ったのかな?
「見合いはどうするんだ?」
「断ってきたよ」
「なんて言ったんだ?」
「好きな人がいるからって」
「好きな人がいるからねえ」
智也の複雑そうな表情は変わらない。やっぱり迷惑だったのかな?
「あの、でも、私は今のままでいいんだからね!」
「今のままねえ」
智也はますます複雑そうな表情をしている。なんと言えば伝わるんだろう。ただ一緒にいたいだけなのに。他には何も望んでないのに。
「そう今のまま」
「……」
「智也?」
智也は戸惑った顔のままでこちらを見ている。目を合わせられない私はうつむき加減でいた。その私の顎を智也の手が持ち上げる。智也の視線と交差する。けれど智也の気持ちはわからない。智也何を考えてそんな顔をしているの?
「本当に梨央奈は……全く……わからないよ」
「全くって!」
私の方がわからないんだけど。全く!
智也は私の顎から手を離してギュッと私を抱きしめた。
「全く!」
全くってなによお!
「俺の側にいろよ。もうどっか行くなよ。勝手に」
「う、うん。ごめん……なさい」
これじゃあどっちが年上なんだかわからないじゃない。
でも心地の良い言葉。ずっと智也の側にいてもいい気がしてくる。
智也の腕の中、心はすうっと満たされていく。そこに
グルギュウー
はへ? 盛大なお腹の音が鳴り響く。
「プッ」
「なんだよ! ずっと梨央奈を待ってたから仕方ないだろう?」
珍しく顔を赤く染めた智也がいる。ずっと待ってたからか……いい気分になっていく。
「はい。なんか簡単に作るね」
「えー、梨央奈はホテルの料理でえ?」
「文句は聞きません。さあて、なにがあったかなあ」
料理をしてしまえば後はいつもの雰囲気に戻ってしまうはずだ。