アイ・ミス・ユー


こうして重い気分のまま、時間だけはあっという間に過ぎていった。


気がつけば4月1日。
すなわち金子が異動してくる当日になってしまった。


朝起きてカレンダーを二度見して、テレビで情報番組を見て日付を確認して、スマホでもしつこく日付を確認した。
何度見ても4月1日。間違いない。


「はぁぁ、とうとうこの日がやって来ちゃったよ〜……」


悲しいかな一人暮らしが長くなると独り言も多くなるわけで。
鏡の前で支度をしながら、ため息を漏らすのだった。


何年も使ってきた鏡には、覇気のない女の顔が映っている。
28年もこの顔と向き合ってきたんだから見慣れてるはずなのだけれど、今日はまた一段と冴えない。


鎖骨の下まで頑張って伸ばした髪の毛はボサボサだし、化粧ノリもあまり良くないし。


コンシーラーを塗りたくってパタパタと粉をはたいて、顔色がよく見える程度にチークを乗せる。
髪の毛は適当に緩く編み込んでひとつにまとめた。


どうにか接客業に携わる者としてまともな見た目に近づけただろうか。
あと私に必要なのは、きっと自然なスマイルだ。


ニコッと鏡の中の自分に微笑みかけた。
憂うつそうな目をした私が、ぎこちなく笑っていた。


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