アイ・ミス・ユー
彼は少しだけ考えたあと、私と一緒に持っていた鉄板をヒョイと持ち上げて肩に担ぎ、空いている方の手を私に差し出してきた。
「手でも繋いでみる?」
ボンッと顔から火が出るかと思った。
白昼堂々、しれっと言われてこっちは戸惑いしか生まれなかった。
「な、な、何言ってんの!繋がないよ!誰かに見られたりしたら……」
「会社の人は誰もついてきてないよ。それよりも、俺と手を繋ぐのが嫌かどうか自分の胸に問いかけてみてよ」
「な、なにそれ……」
落ち着き払った金子の態度も気に食わなかったけれど、この人の発言に顔を赤くしている自分にもビックリした。
これが今野くんあたりだったらどついてたかもしれない。
「嫌じゃないなら、握って」
思ってたよりも大きな手のひらを向けられて、私は冷や汗をかきながら迷う。
嫌じゃない。
嫌じゃないけど、社内恋愛はもうするつもりもないし。
この手を握ったら、また始まりそうでなんか怖い。
すると彼の方から私の手を握ってきた。
心臓が飛び跳ねる。
「嫌なら、振りほどいてね」
彼はそう言って、先程よりも少しゆっくりとした歩調で歩いていた。