アイ・ミス・ユー
どことなく切なさが滲むような声で、金子はさらに続けた。
「というか、俺は全部無かったことにしたいくらい。傲慢で、自分勝手で、思いやりのなかったあの頃の自分を猛反省してる。どうかしてたと思う」
「そ、そこまで卑下しなくたって……」
5年前の時には見えなかった、彼の苦悩がこんなところで見えた。
もっと強い意志でキスしてきたのかと思ったけれど、あれは彼にとっても予想外の行動だったのかもしれない。
「俺はいつも迷いながら君に接してる。二度と同じ過ちは犯しちゃいけないって。それだけ考えながら」
彼の消え入りそうな声を聞いた直後、車はゆっくり停車した。
ハッと気がつくとマンションの前まで来ていた。
ここまであっという間に感じた。
「ねぇ。それじゃあ提案させて」
思いのほか暗くなってしまった空気を明るくするべく、私はシートベルトを外しながら微笑んだ。
「お互いに、あの時のことは無かったことにしない?それでチャラ。どう?」
「…………………………でも」
「だって、そうじゃないとずっと平行線だもの。仕事をスムーズに進めるためにも。仕事のためよ。ね?」
あくまで「仕事」を強調したのは、たぶん、やっぱり全然素直になり切れていない証拠だ。
「…………綾川さんさえ、良ければ」
金子はほんの少しだけ不服そうではあったけれど、張本人の私が言い出したことだからかそれ以上何も言ってこなかった。
「じゃあ改めてよろしく。金子くん」
「…………え?今、なんて?」
流れでさりげなく名前を呼んだはずが、無駄にしっかりキャッチする金子。
この微妙な変化を追求しないでほしかった!
「いいでしょ。今はプライベートなんだから。主任って呼ぶの変じゃない」
「ありがとう」
「お礼を言うようなことじゃないわよ」
照れ隠しがうまく出来ないことを瞬時に自分で悟った私は、急いで車を降りると金子に声をかけた。
「じゃあ、送ってくれてありがとう。また明日」
「うん、またね」
私と金子は手を振り合って、そのまま別れた。