アイ・ミス・ユー


普段はそんなに頼れる雰囲気を持っていない金子の、唯一テキパキしているところを見れるのは、紛れもなく仕事をしている時である。


週末から始まる秋の新生活フェアに向けて店内の販促物を一新することになっていて、今週に入ってからの販促部はてんやわんやの状態が続いていた。


金子はその中心となって、酒田部長からの要望を聞きながら部下に指示を出していた。


千手観音にでもなったのかっていうくらい、猛スピードで仕事をこなしていく。


「矢部さん、このポップの文字は白抜きでお願いします」

「各自担当の部門で何を売り出したいか明確に提示してください」

「今野と田上さんは店舗に行って、販売部と大まかなディスプレイ相談してきて。持ち帰って報告してください」

「山崎さん、さっきのポスターの背景が暗すぎて遠目からだと見づらいから、ちょっと練り直してくれる?」

「綾川さん、過去3年分の9月の売上推移見たいから、ロスの裏に印刷しておいてくれないかな」


パタパタと社員が行き交う事務所の中で、金子が冷静に指示を飛ばし続ける。
常にパソコンに目を向けた状態で、差し出された資料にも目を通し、なおかつアドバイスや指示を送り、そしていい案が出れば採用して承認印を押す。


単純なことだけれど、これはけっこう大変なことなのだ。


店舗の中の何に力を入れて売るのか、どんな風にお客様に見せるのか、どう接客して売っていくのかまでを全て計算していかねばならないのは、なかなかの責任も伴ってくる。


金子の仕事ぶりは、酒田部長だけじゃなく他部署の人も認めるほど的を得ていてセンスに溢れていた。

< 116 / 196 >

この作品をシェア

pagetop