アイ・ミス・ユー
「金子基之です。岩見沢店から来ました。主任として働くのは初めてなので、ご迷惑をおかけすることもあると思いますが精一杯頑張ります。よろしくお願いします」
ペコリと丁寧に頭を下げた金子が顔を上げる。
その時、目が合ったような気がしたけど次の瞬間には彼はもう違う方を見ていた。
シャープな目元にスッキリした短い黒髪。
細身で身長はそれなりにあるけれど、ものすごく高身長ってわけではない。
自信がありそうでもなければ、無さそうでもない。
初めての店舗に来たという緊張感はあまり感じない、非常に淡々とした口調で自己紹介していた。
5年前の彼の印象と、あまり変わりない。
物静かな落ち着いた雰囲気、自己主張が少ない穏やかな空気感。
そして、ごく自然な微笑み。
これでどうやって、同期の中で一番最初に昇進したっていうんだろう。
私が疑問を感じる中、隣にいる翡翠ちゃんがポツリとつぶやく。
「悪くないかも。ミスターアベレージって感じで」
「え?なに?ミスターアベ……?」
「綾川先輩、ミスターアベレージ、です」
それが一体何を意味するのか聞きたいところだったけれど、遮るように酒田部長が
「綾川さん」
と声をかけてきた。
まさか自分の名前を呼ばれるなんて思ってもみなかったので、ビクッと肩を震わせて「はいっ」と返事をする。
「ミーティング終わったらちょっと来てくれるかな?そんなに時間は取らせないから」
そう言われて、私は素直にうなずいておいた。
拒否権なんてあるわけがないのだから。
でも、でも、でも。
━━━━━嫌な予感しかしないんですが。
はい、と力無くうなずくと、今度こそ間違いなく金子と目が合った。
その目は感情の読めない色をしていた。