アイ・ミス・ユー
「巴さん……って婚約者の?」
「あぁ、彼女に結と会ったって聞いて。なんか色々イヤミ言われただろ?」
「どうせ私なんて意地っ張りで素直じゃない女ですから」
「バカだな、鵜呑みにするな」
周囲に気を配りながら、健也がため息混じりに呆れたような声を上げた。
「意地っ張りで素直じゃないけど、時々抜けてる時もあって憎めない子だって話してたんだよ。それをアイツ、嫉妬心から必要なところだけ切り取って伝えたって言うもんだからさ。お前が傷ついてるんじゃないかって」
「…………わざわざ気にかけてくれたんだ。ありがとう」
健也らしからぬ優しさにほんの少し心が和やかになった。
もしかして、別れたことで少しは変わったのかもしれない。
いや、本来この人は優しい人なのかもしれない。
「まぁ、俺と結はオープンにしてたし、付き合いも長かったから。巴も不安なんだと思うよ、短い交際期間で結婚するのが」
「そうかもしれないね」
「俺に免じてアイツのことは許してやって」
もちろん、私は彼の願いを快く受け入れた。
即座にうなずいてみせると、健也は「どうもな」と笑っていた。
ヒソヒソと身を寄せ合って話していると、聞き慣れた声が私の名前を呼ぶのが聞こえた。
「綾川さん?」
はい、と返事をして振り向くと、金子が少し離れたところに立っていた。