アイ・ミス・ユー
「ごめん。取り込み中なら後にするよ」
後ずさりして身を引こうとする金子に向かって、健也が私の背中を押して差し出す。
「いや、話はもう終わったから。じゃ、結。仕事頑張れよ」
「あ、健也。ありがとね」
「うん」
ヒラヒラと手を振って立ち去った健也の背中を見送っていたら、金子に話しかけられた。
「これ、吊るしディスプレイの案が出来たから持ってきた」
「分かりました」
「それから、入口正面の平台のレイアウトも」
「早いですね、ありがとうございます」
金子がコピーした資料を何枚か渡してくれたので、ザッと目を通す。
秋らしい雑貨を中心に、引越しする人に役立ちそうなパック家具も売り出していく見やすいディスプレイ。
例年と少し雰囲気が変わりそうで、今回のフェアは楽しいかもしれないとウキウキしていると、上からボソッと金子のつぶやきが聞こえてきた。
「……やっぱり、元彼って特別な存在?」
「え?」
完全に仕事モードだった私は、なんのことかと目をぱちくりさせて彼を見上げる。
金子は私から目をそらしていた。
「さっき、名前で呼び合ってたから」
彼に言われて初めて気がついた。
気をつけていたつもりが、ついつい昔のようにラフに話してしまっていた。
「あ、あれはそうじゃなくて」
「いや、ごめん。忘れて」
いつも穏やかで優しい笑顔をくれるはずの金子が、少し不機嫌そうに眉を寄せて私のそばからいなくなってしまった。