アイ・ミス・ユー


そんな私たちの中へ、ひょいと顔を出したのは翡翠ちゃんだった。
彼女はとってもちんまりしたお弁当を持ってきていて、「相席いいですか〜」なんて言いながらイスに腰かけてきた。


「お疲れ様」

「お疲れ様です〜、綾川先輩、山崎先輩」


ニッコリ笑顔を見せる翡翠ちゃんは、ここ1ヶ月ほどで突然成長し始めた。
一体何があったのか問いただしたくなるほど、意気揚々と仕事をこなし、きちんとメモをとり、教育係でもある今野くんの教えを吸収している。


「そうだ、田上さん。今野に聞いたわよ。今度のフェアが終わったら独り立ちなんだってね」


樹理が翡翠ちゃんにそう言っているのを聞いて、初めて彼女がやっと評価され出したことを知った。


「へぇ、そうなの?凄いじゃない。頑張ったね」


本来ならば3ヶ月ほどで独り立ちするところなのだけれども。
大きくオーバーしていることは、一応この場では言わない。


「ありがとうございます〜。金子主任に間もなく教育係外すからって言ってもらえて……。ちょっと怖いですけど、頑張ります」

「何があったのよ、あなたやる気なかったじゃない」

「あ、結婚することになったんです」


サクッと告げられて、私も樹理も衝撃を受ける。


け、け、結婚だと?
つい1ヶ月前まで金子に現を抜かしていたはずなのに、結婚だと?


私たちの様子を知ってか知らずか、彼女はヘラッと笑いながら続ける。


「先月から幼なじみと付き合い始めて、もう20年近く友達だったから酸いも甘いもお互い分かってるんで、じゃあ結婚しようって言われて」

「嘘……凄すぎ……」

「えへ。そんなわけで、来年の春に寿退社します。それが決まったら、急に仕事のスイッチ入っちゃって。やれば出来ますね、私」


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