アイ・ミス・ユー
部屋の鍵を開けて、パンプスを脱いでリビングに入る。
電気もつけずにベランダの外へ出た。
秋口の涼しい心地よい風がゆるく吹いていて気持ちいい。
お願いします、と祈る。
向かいのマンションのあの部屋から、あの人がフラリと出てきてくれますように。
叶う確率なんて低そうな願いだったのに、その祈りはすんなりと届いた。
カラカラ、と小気味よい音が聞こえて、見つめていた向かいのマンションの一室から人影が揺れる。
金子がベランダまで出てきたのだ。
そこからはもう色々考えるのはやめた。
体が勝手に動いて、こちらに気づいていない様子の彼に話しかける。
「金子くん!」
一瞬ビックリしたように肩を震わせた金子が、すぐに正面のベランダにいる私を見つけて身を乗り出してきた。
道路を挟んでいるので、少し声を張り上げないと会話は聞こえない。
「夜風に当たると風邪引くよ」
と、こんな時にまでしっかり優しい金子のセリフに思わず吹き出す。
ねぇ、と心の中でつぶやく。
「別れたばっかりなのに、もう会いたいよ」
通りすがりの人とか、窓を開けっ放しにしている住人に全部聞かれているかもしれない。
それでも、伝えたかった。
「別れると、寂しくなる」