アイ・ミス・ユー
「こうして一緒に起きて朝ごはん食べられるなんて、俺はそれだけで仕事を頑張れそうだよ」
食器を空にした金子はまるで幸せのため息とでもいうような息をつき、昨日の夜とは違う、普段通りの優しげな笑顔を浮かべている。
なかなかの甘いセリフも、彼が言うとわざとらしさとかあざとさを感じさせない。
あんなに社内恋愛はもうコリゴリだって思っていたのに、そんな思いなんてどこかへ飛んでいってしまうほど私も幸せを感じた。
自分にこんな乙女の要素が残っていたことに我ながら驚く。
そしてその相手が金子だなんて。
半年前には予想もしていなかった。
その思いを見透かしたのか、まだご飯を食べている私の顔を金子がまじまじと見つめてくる。
「……なに?」
「いや、5年前は顔と名前も一致しなかった俺と付き合うことになるなんて、不思議だなぁって思ってない?」
的を得たような問いかけに、思わず動揺が顔に出る。
それを見て彼は楽しそうに笑う。
「今となってはいい思い出だよ。でも忘れられてるって分かった時は凹んだけど。それでムカついて、つい……」
「キスしたのね」
「……そう」
この話題が出るたびに、いつも彼は申し訳なさそうに目を伏せていたのだけれど。
今日は違っていた。
テーブルに肘をつき、余裕を持った顔でこちらを見ている。
「でも、あの時のキスなんて今となっては小鳥のキスみたいなもんでしょ?」
「…………こ、小鳥?」
「うん。だって昨日はお互い本気のキスで、ものすごい燃え上がったわけだし。あんな小鳥のキスなんて大したことないって分かったじゃない」
「ん、ゲホッ!ゴホゴホッ」
飲みかけのお味噌汁を半分吹き出して、一瞬にして冷や汗が背中を伝う。
恥ずかしさからキッと顔を上げて睨むと、金子はそれこそ優しさ全開の微笑みで嬉しそうに目を細めていた。