アイ・ミス・ユー
私はこの男を、やっぱり見くびっていた。
前までは5年前の話題が出ようものなら、とにかくまず謝ってきていたというのに。
草食系男子って何事にも控えめなんじゃないの?
なかなか押せなくてモジモジしてるんじゃないの?
そんな姿、もう金子には感じられない。
もしかして、金子基之という男。
かなり計算高い男、とか?
ポカンと口を開けていたら、彼は思い出したように壁掛け時計を見て、少し急いだ様子で立ち上がった。
「ごめん、いったん自分のマンションに帰ってシャワー浴びたり着替えたりしてくるよ。食器洗ってもいい?」
「あ、食器はあとで私が洗っておくから大丈夫」
「ありがとう」
食べかけの私の朝食は置いておいて、私の部屋を出ていこうとする金子を見送るためにリビングを出て玄関へ向かう。
「それじゃ、また会社でね」
「うん。……あ」
鍵を外して、ドアノブに手をかけた金子が不意に振り返る。
何事かと思って尋ねる隙もなく、彼の腕が私の体に回ってきてギュッと抱きしめられた。
途端に心臓がドキドキしてしまい、昨夜のキスとか甘い言葉を思い出して不覚にもキュンとしてしまった。
「俺、結子に感謝してる」
「…………え、感謝?」
想定外の言葉をかけられて、不思議に思って聞き返す。
抱き合ったままで、金子がうなずくのを耳の後ろあたりで感じた。