アイ・ミス・ユー
ちょうどそこへ、店舗へ降りるため席を外していた今野が事務所へ戻ってきた。
ヤツは洋次郎に気づいて「お疲れ様です」と挨拶している。
私とも目が合ったのに、分かりやすいぐらいに逸らされた。
なんなんだよ、一体。
そんなに私のことが嫌なわけ?
あからさまな態度に腹が立ったけど、いちいち噛み付くのも大人げないのでやめた。
とりあえず洋次郎の話したいこととやらを聞こうじゃないか。
「分かった。じゃあ駅のカフェとかにする?エスタのコゼットとかはどう?」
「お、いいね。そうしよう。今日は定時に終わりそう?」
「んー、微妙。遅くとも19時には終わると思うけど」
「俺も同じくらいだな。じゃあ仕事終わり次第コゼット集合な。あとでラインする」
洋次郎は私との約束を取り付けたあと、「またな」と笑顔で事務所を出ていった。
なんの話だろうな。
彼女とケンカしたとかじゃなさそうだし、酒抜きってことは大事な話のようだ。
ひとまずイスに腰かけて、先ほど洋次郎から受け取った企画書に目を通す。
すると、どこからか今野の声がした。
「デートっすか?」
まさか話しかけられると思っていなかったので、少し驚いて顔を上げる。
今野が向かいのデスクから私を訝しげに眺めていた。
「……別に。そんなんじゃないわよ」
「いいっすね、ラブラブで」
「はぁ?」
おちゃらけ今野が戻ってきたかのような楽しげな口調に、内心ムカついたけど。
気のせいか、彼の目は笑っていなかった。
せめてもの反論で、小声でつぶやく。
「自分だって昨日は彼女とジンギスカン楽しんでたでしょーが。自分を棚に上げて話すのやめてくれない?」
「だからあれは違…………」
「うっさい。企画書読むから黙ってて」
ブンブン飛び回る小バエを追い払うように言い捨て、今野をシャットアウトしてやった。
まだ何か言いたげな彼は、口を結んで仕方なさそうにパソコンと向き合って仕事を再開し始めた。
口を開けばお互いにイヤミばっかり。
なんで泣きそうになってんのよ、私ったら。
しっかりしろ、キャラじゃないでしょ。
こんなの望んでなかったのになぁ、と企画書で顔を隠した。