アイ・ミス・ユー
結局、こうやって頼み込まれると断るのも申し訳なくなってきて。
洋次郎とはものすごーく仲良しってわけでもないけど、同期の中では親しい方だし。
やってあげてもいいか。
「素人で良ければ、引き受けます」
「ほんとに?助かる!」
「たーだーし!」
私は洋次郎のわざとらしい合わせた両手を無理くり剥がし、ニヤリと含んだ笑みを向けた。
「お礼はディズニーチケットじゃなくて、温泉旅行のペアチケットでよろしくね」
「………………さすが樹理ちゃん。抜かりないわ」
当たり前でしょ、と付け加えてやった。
ビンゴゲームで当たるならまだしも、この年になったらゆっくり休める温泉の方が魅力的に思うようになったのだ。
元々、遊園地などの類のものは歩き回らなきゃならなくて疲れるので苦手だからだ。
「じゃあ、交渉成立。よろしく頼みます。日時や場所は、まとめてラインします」
「オッケー。よろしくね」
こんなことを頼むためにわざわざ酒抜きにするあたり、洋次郎ってけっこう変なところ真面目なのね。
そう思っていたら、彼は腕時計をちらりと見下ろして「あ、ごめん」と言った。
「このあと、実は彼女とご飯食べに行くんだ」
「なんだ、早く言ってよ。行きなさいよ」
「うん。コーヒー飲んだら行くわ」
残っていた半分のコーヒーをグビッと一気に飲み干した洋次郎は、ふと私の後ろの方に視線を送るとポツンと聞いてきた。
「なぁ、樹理ちゃん。温泉旅行は誰と行くの?可愛い可愛い販促部の後輩くんと?」
「━━━━━は?」
いきなりこいつは何を言い出すのかと耳を疑った私は、眉を寄せて洋次郎に質問の意味を問いただそうと口を開きかけた。
しかし、それは空振りに終わる。