アイ・ミス・ユー
突然、誰のか分からない手が伸びてきて、私の腕を引いてきた。
驚いて振りほどくよりも先に手の主を探すと、信じられないことにそこにいたのは今野拓だった。
「…………こ、今野?」
動揺しまくって、掠れたような声しか出てこなかった。
彼はやたらと何やら強い意思でも秘めたような目つきをしていて、そんな真剣な顔つきは正直言って初めて見るものだった。
「お話し中、すみません」
今野が私ではなく、洋次郎に勢いよく頭を下げた。
謝られた洋次郎も、状況を飲み込めないのかポカンとした顔で今野を見つめている。
「デートの邪魔をしに来ました。ということで山崎さんは連れていきます」
早口でそう告げた今野が、足元のカゴに入れていた私のバッグを勝手に取り上げ、けっこうな強い力で腕を引いてきた。
いや、なんなのこれ!
「ちょ、ちょっと!バカ言わないでよ」
「いいから来てください!」
若干怒り気味の今野に、思わず怯んでそれ以上言い返せず。
どうしたものかと洋次郎を見やると、彼は何故か嬉しそうに頬杖をついてニッコリ微笑んだ。
「そういうことか。樹理ちゃんを頼むよ、後輩くん」
「洋次郎っ。何言ってんのよっ」
私の言葉が洋次郎に届いたかどうか。
話半分で半ば強引に今野によってお店の外へ連れ出されてしまった。