アイ・ミス・ユー


彼を支えたい、彼の愛情を受け止めたい、そう思えば思うほど苦しくなっていって。
そして彼のとめどない周囲への愚痴を聞くほどに愛が冷めていって。


最後の1年は惰性で付き合ってしまった。


別れを切り出したのは健也の方で、そんな私にとっくに気がついていたと話していた。


『別に俺はお前じゃなくてもめぼしい女は他にもいるし。別れよっか。無理して付き合うくらいなら思ってることをハッキリ言えばよかったのに。仕事ではズケズケものを言ってくるくせに、恋愛になると遠慮しすぎだよ。そんなんじゃ一生いい恋愛なんて出来ないな。だってお前、素直じゃないもん』


そう言い残して、彼は私の元を去っていった。
言われ放題の私は、悔しい気持ちで涙を流すしかなかった。


この別れの最後のワンシーンこそが、私の人生の中で一番思い出したくない出来事なのだ。





…………とまぁ、こんな具合にいい別れ方をしたわけではない。
健也の最後の言葉にムッとしたのも事実。
でも彼が言ったことがほとんど合っているのも事実。


悔しいけれど、言い返せなかった。





それから健也は本社が新しく考案して、主要店舗のみに設置することになった『住宅インテリア部』の企画メインスタッフとして働くことになり、今年度からはそちらの方で忙しくしているようだ。


彼が販促部を去ってからは店舗には頻繁に出入りしているようで時々見かけることはあったけれど、事務所の中の販促部へ来ることなんてごくまれ。


すれ違うことはあっても、こんな風にちゃんと顔を合わせたのは別れた日以来久しぶりだった。


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