アイ・ミス・ユー
「あの手のお客様は、責任者が出てきて謝罪すればたいてい機嫌が直るから。店長も忙しいだろうし、だったら俺が行っちゃおうと思って。無断で席を外してごめん」
「…………いえ」
理不尽なことで責められる部下を放っておけず、一緒に謝罪していたというならば私だって鬼じゃないんだからこれ以上文句は言わない。
ところが、金子はさらに言葉を続けた。
「でも彼が自信を無くしてしまうんじゃないかって心配になるよ。あぁいうことがあると、悪いことを注意するのにも気を遣うようになるもんね。あとでベッド部門のリーダーさんに彼のフォロー頼んでおこうかな」
「そういうことなら、私からリーダーに伝えておきます。主任は仕事が溜まっていますから」
「あはは、事務所戻るの恐いな。じゃあさっきの件は綾川さんに任せるね」
悪いね、と笑う金子を見ていたら、ある日の元彼・健也が愚痴っていたのを思い出した。
『上司になるって本当に面倒だよ。部下の尻拭いまでしなくちゃいけないんだからさ。特にクレーム処理なんて最悪中の最悪だよ。なんで俺が他人のミスのために頭を下げなきゃいけないんだろう。バカらしくて嫌になるよ』
端正な顔を歪めて、そう言っていた健也。
金子はそう思わないのだろうか。
「あの、主任」
「ん?」
「クレーム対応、嫌じゃないんですか?自分がミスしたわけでもないのに」
「え?なんで?嫌じゃないよ」
彼は少しビックリしたように目を丸くして、首をかしげた。
「だって役職を持つってそういうことでしょ。後輩たちの成長のため、お客様に気持ちよく買い物してもらうためと思えば、いくらでも頭なんて下げるよ。……おかしいかな?」
「おかしく……ありません」
私が返事をした時、ポンという音がしてエレベーターのドアが開いた。