アイ・ミス・ユー


やがて飲み会が進むにつれて、いつの間にか私と樹理の間には1年目の翡翠ちゃんが座り込み、彼女の寿退社への熱意を聞くハメになった。


「やっぱり女なら若くて可愛い20代中盤くらいまでには結婚して、みんなにチヤホヤされて仕事を辞めたいと思いませんか?中途半端に私事で辞めるよりも寿退社だと角も立たないし、なによりみんなに祝福されて辞められるじゃないですか〜。そこですよね、重要なのって」

「う、う〜ん……」


ひとりで語らせるのも悪いと思って、一応なんとなく相槌をうっている私とは対照的に、樹理の方は不機嫌オーラ全開で顔を歪ませていた。


なにしろ翡翠ちゃんの言っている「20代中盤」を、私と樹理はすでに通過しているからだ。


私も健也と付き合い始めた当初は、この人と結婚するのかなーなんて漠然と思ったりしていたなぁ。
辞めるってことまでは考えてなかったけれど。


そんな私たちには気づかない様子で、翡翠ちゃんが話を続ける。


「ずっと前から決めてたことがあって。結婚相手は普通の人にする、って。顔も、性格も、体型も、仕事も、趣味も、何もかも普通の人。要するに、アベレージマンがいいんです」

「アベレージマン?」

「はい、平均的な人って意味です」


頬杖をついて心底興味無さそうな樹理は、ほとんど投げやりに彼女の話を聞いている。
翡翠ちゃんは特に気にすることなくニコッと笑って花を飛ばしてきた。


「イケメンでハイスペックな人は鑑賞するだけでいいんです。そんな人と結婚したら、浮気されるんじゃないかっていつもヒヤヒヤしなきゃいけないし……そんなの疲れるだけだし」

「あー、それはなんとなく分かるかなぁ」


私がうなずくと、同志を得た!とばかりに翡翠ちゃんが飛びついてきた。


「ですよねですよね!安定した家庭を築くには、見た目も中身も収入も普通くらいがいいですよね!」


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