アイ・ミス・ユー
「違う違う違う!違うから!翡翠ちゃん、誤解しないで!もーーー!樹理!誤解を生むようなこと言わないで!」
半ばパニックになった頭で言い捨てると、翡翠ちゃんが小動物のような眼差しで私をじっと見つめてくる。
「え……まさかもう付き合ってるとか!?」
「一度もヤツとは付き合ってない!」
「言い寄られてるとか!?」
「全然!微塵もそれらしいことされてない!」
答えつつ、今は、と心の中で付け加えた。
樹理のせいで、引き出しにしまっていたはずの遠い昔の記憶が思い出されてしまった。
真新しいリクルートスーツに身を包んだ、今よりも少し若い金子基之の姿。
その彼が緊張の面持ちでこう言った。
『もしよかったら、連絡先教えてくれないかな。時間があったら、そのうちご飯とか行きたいなって思ったんだけど』
その淡い記憶を気合いで消し去った私は、もうひとつ思い出しそうな一番ヤバい記憶を一緒にしてどこかへ飛ばしてやった。
「あのね、翡翠ちゃん。樹理が言ったことは嘘だから。あなたをからかいたくて言ったのよ。ねぇ、樹理?」
「さぁ〜、どうだか〜」
「樹理!」
事態を収束させようと必死になって翡翠ちゃんに言い聞かせようとしているのに、樹理は協力する気を見せてくれない。
おかげでいつもより大きな声で怒ってしまった。
しかし、肝心の翡翠ちゃんはなんとか理解してくれたようで。
「綾川先輩、焦りすぎですよ〜。大丈夫です。信じますから!」
と、笑ってくれていた。