アイ・ミス・ユー


そんなこんなで金子の歓迎会は終わり、せっかく飲んだ美味しい焼酎の味も忘れてしまい、たかだか数十分の会話で疲れ果ててしまった。


「あっははは、結子をからかうの楽しくてしょーがないわ〜」

「樹理……恨んでやる……」


居酒屋の外でお気楽に笑い飛ばす樹理を、私は恨みがましく睨んでおいた。


「もう疲れた。私帰るね」


明日は月に一度の全館休業日だから、本社の方も仕事は休み。
樹理のせいで精神を削られたので、出来ることならこのまま帰ってふて寝したい。


しかし。
そうさせてくれないのが、あの男。


「綾川さーん!二次会行きましょ!カラオケ!」


後輩の今野拓。通称カラオケ男。
こいつの飲み会のあとの口癖は、「二次会はカラオケ!」だ。
とにかくカラオケが大好きで、上司だろうか先輩だろうが誰かれ構わず誘いまくって連れていくのだ。


「今野くん。悪いけど私は帰る!」


ダッシュでその場を切り抜けようとするも、今野くんにグイッと腕を掴まれて引き止められる。


「何言ってるんですか!綾川さんの中島みゆき、ぜひ主任に聴かせてあげましょうよ!」

「………………は?」


振り向くと、どうやらカラオケ男に誘われたらしい金子も一緒になって私を見ていた。


無理っ!!
無理無理無理無理っ!!
金子の前で中島みゆき歌えないっ!!
地上の星歌えない〜っ!!


今野くんに引きずられるようにして、私はカラオケ店へと連れ込まれることになってしまった。








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