アイ・ミス・ユー
「今朝の辞令には私もビックリしたよ〜。まさか金子くんが私らの上司になって異動してくるなんてね」
休憩室で手作り弁当を食べながら、樹理が感慨深げにため息をついた。
「よくよく考えるとうちら同期、ほとんど大卒だからみんな28歳だもんね。仕事で結果出してるなら、現場のチーフから主任クラスに昇格する人が出てきてもおかしくない歳なんだなぁ、なんて実感しちゃった」
「だからってなんで……」
朝の衝撃を引きずったまま午前中の仕事を終えた私が、なけなしの力を振り絞って樹理に訴える。
「だからってなんで金子なの?ピンポイントで金子だなんてひどいよ。岩見沢店で主任やってればよかったじゃない。ねぇ?」
「私に言われても……。ほら、ウチも急な病気で沢渡主任が退職しちゃったし、穴埋めで来るんでしょ。きっと金子くん本人も驚いてるんじゃないの?…………てゆーか、結子って金子くんとどれくらい会ってないわけ?」
「…………………………かれこれ5年、かな」
「頑なに同期の飲み会とか断ってたもんねぇ」
地味な努力を労うような口調で声をかけてくる樹理を、恨めしい目つきで睨んでやった。
まるで他人事なんだからっ。
まぁ、樹理からすれば他人なんだけど。
「私は極力ヤツと会わないようにしてたのよ。でも5年前の社外研修だけは避けられなかったから仕方ないけど」
「これまでに金子くんから連絡が来たりとかは?」
「何も無いよ!その前に連絡先も交換してないし!万が一あいつが本店に来るようなことがあった時は、事前にチェックしてひたすら売り場に立って会わないようにしてたし!」
「ほぉ〜、徹底してますなぁ」
樹理はどこか楽しげな笑みを浮かべて、お弁当の厚焼き玉子をポイッと口の中へ放り込んでいた。