アイ・ミス・ユー
部屋着のまま窓を開けて、健康サンダルを履いてベランダへ出た。
気持ちいいほどの青空が広がっていて、さっきまでの頭痛が和らいだ気がした。
ベランダで大きく背伸びをして、チマチマ育てているハーブの鉢植えに水をやり、たっぷり日光浴したしそろそろ部屋に戻ろうかとした時。
車が通り抜ける音と共にカラカラ、と引き戸が開く音が聞こえた。
何気なく向かいのマンションに目を向ける。
その瞬間、私は目を疑った。
私の住んでいるのよりもひとつ上の階……おそらく6階だろう。
その一室からひとりの男がベランダに出てきたのだ。
彼は物干し竿に、慣れた手つきで洗濯物を干している。
その様子を、私は息を飲むようにしてガン見していた。
心臓が違う意味でバクバク音を立て始める。
どうか人違いであってほしいという私の儚い願いなど、神様が聞き入れてくれるわけもない。
ひと通り洗濯物を干し終えた彼が、顔を上げる。
私と目が合った。
ガシャンと音がして、彼が持っていたらしいプラスチック製の洗濯カゴがコンクリートのベランダ床に落ちたのが分かった。
彼は彼で、相当動揺しているらしい。
「お、おはよう……」
向こうのベランダから、しどろもどろな挨拶を投げられる。
開きっぱなしになっていた口を、私もどうにかこうにか動かして返事をした。
「おはようございます……、金子主任」
どうやら私と金子は、お向かいのマンションに住んでいるらしい。
神様はやっぱり……意地悪だ。