アイ・ミス・ユー
「あなたは?ここは本命じゃなかったの?」
「本命だよ。一部上場企業だし。でも君ほどの熱意は無かったな。見習わなきゃ」
「別に見習わなくてもいいよっ」
淡々と話す彼を見ていたら、熱く語った自分が恥ずかしくなってしまい、残りのご飯をかき込むと席を立った。
「お手洗い行ってくるね」
「あ、5分後ホールに集合だって」
「そっか。じゃあここでお別れだね。あなたの希望通り、市内の店舗に配属になるといいね」
私はリクルート用のカッチリした合皮のバッグを抱えて、何か言いたげな彼に笑いかけて会議室を出た。
100人いる中の、ひとり。
それが金子基之だった。
名前を聞いてもどうせ配属先は違うだろう。
だから聞かなかった。
販売部か販促部であれば、店舗はどこでも構わないと人事部に申請していた私。
もしかしたら、配属先によっては人生初の一人暮らしが出来るかも!と私にとってはそちらの方が重要だった。