アイ・ミス・ユー
すると、私と樹理が座るテーブルに小さな小さなお弁当をコトンと置いて、ほわわ〜んとしたようなお花を飛ばすイメージでやって来た女がいた。
彼女は私が金子のことで困り果てる前に散々悩まされた、入社して半年にも満たない1年目の女子社員・田上翡翠。
若いオーラ全開かつ魅惑的なロングのゆるパーマをなびかせて、エクステを駆使しているであろうバサバサの睫毛を揺らしながらちょこんと座ってきたのだ。
「お疲れ様で〜す!何の話してたんですか〜?私も混ぜて下さいっ」
健気と言えばそう見えなくもない潤んだ瞳で、私と樹理を交互に見てくる。
私にはよく理解出来ない、今流行ってるらしい「血色メイク」とやらを施した彼女の顔は、申し訳ないけれど仕事向きじゃないと思う。
そのメイクはやめた方がいいよ、という私のアドバイスは右から左へと通り抜けたのだろう。
特に変えることなく続けている。
樹理はそんな翡翠ちゃんに分かりやすい作り笑いを浮かべて、適当に受け流していた。
「あっはは〜。別に田上さんに話すほどのことでもないよ。ね、結子」
「うん、まぁ……」
同じ販促部にいるとは言え、樹理は食器や清掃用品や季節のインテリアを扱う雑貨部門を担当しており、翡翠ちゃんとは直接関わりはない……が。
嫌というほど私が彼女についての愚痴を伝えているため、面倒な子であるという認識が働いているらしい。
それもそのはず、販促部のファブリック部門でせっせと後輩の指導にあたっている私が現在手を焼いているのが、目の前に座って小さなお弁当をチマチマ食べている翡翠ちゃんその人なのだ。