アイ・ミス・ユー
入社して1年が経ったある日、社外研修があった。
各店舗から1人から2人ずつ人員を出して、会社で取り扱っている木材の源になっている羅臼という土地へ社員が出向き、どんな風に木材を入手して加工するのかを直接見せてもらうという、いわば「社会科見学」のようなものだ。
こういった企画は社長が好きなようで、時々かり出されるのだけれど。
なるべく若手に行ってほしいという話から、本社から参加したのは私と樹理だった。
そしてその社外研修で、金子基之と1年ぶりに再会した。
「あ。綾川さん。久しぶり」
声をかけてきたのは、金子の方だった。
現地の羅臼で、契約している土地所有者の深々とした森を案内してもらっていると、列をなす各店舗の社員たちの中からひょっこりと顔を出した男がいた。
私と樹理は並んで歩いていて、金子に名前を呼ばれて振り向く。
一緒になって振り向いた樹理が、不思議そうに尋ねてきた。
「……誰?知り合い?」
100人もの同期が道内あちこちにいるのだから、樹理が金子のことを知らないのは当然と言えば当然のこと。
だけどあろうことか、私は金子のことを思い出せなかった。