アイ・ミス・ユー
私と金子は当然ながら向かう場所が一緒なので、乗る地下鉄の駅も同じ、降りてからも同じ。
おのずと一緒に出勤みたいな形になってしまった。
その間、会話が弾むってことはなかったけれど、2人ともそれなりに大人になっているので。
日常的な当たり障りのない話をしながら会社へと向かった。
間もなく会社に着く、というところで後ろから「おはようございます!」と元気でエネルギッシュな挨拶が飛んできた。
「おぉっ、早速2人で出勤ですか?朝からお熱いですね〜」
と、楽しそうにニヤける男が1名。
カラオケ男、今野拓だ。
「おはよう、今野。熱いってなんのこと?」
「またまた主任、とぼけちゃって〜。一昨日の二次会、途中で綾川さん連れてフェードアウトしたの見ましたよ〜!意外と手が早いっすね!なんちゃって」
「今野くん、勘違いしてるから」
金子が私をお持ち帰りしたとすっかり思い込んでいる今野くんに、慌てて訂正を入れる。
「あの日はタクシー拾ってもらって別々に帰ったのよ。今朝はたまたま地下鉄の駅で主任に会っただけだもの。ね、主任?」
「うん、そう」
「ふぅ〜ん、なんだ、つまんないなぁ。綾川さんも、失恋は新しい恋で癒さないとあっという間にアラサーからアラフォーになっちゃいますよ?」
「余計なお世話っ」
若干置いてけぼりをくらっている金子を残して、私はヘラヘラ笑う今野くんの背中を軽くバッグで叩いてやった。
彼は「恐〜っ」と怯えるふりをして、さっさと小走りで会社の通用口に吸い込まれていった。