アイ・ミス・ユー


翡翠ちゃんは、決して悪い子じゃない。
悪い子じゃないんだけど、とにかく空気が読めず、なおかつ常識が通用しない。
言っていいことと悪いことの区別が出来ないというか、曖昧なので基本的に思ったことは口にしてしまう。
それが売り場に立った時に、お客様のクレームに繋がることもしばしばある。


純真無垢と言えば聞こえはいいが、私にはいわゆる「天然小悪魔」にしか見えなくて恐い。
仕事を教えても教えても一向に吸収してくれないので、教育係としてどうしたものかと頭を悩ませているのだ。


一般的には大体約3ヶ月ほどで新人への教育期間は終わり、ほとんどの子が独り立ちしていくものだが、翡翠ちゃんは部長からのゴーサインが出ないのでいまだに私にベッタリで仕事をしている状況だ。


当の本人は、樹理の軽いあしらいに負けることなく頬を膨らませていた。


「山崎さんのケチッ。ガールズトークに入れてくださいよ〜」


私なら先輩に向かって「ケチ」とか言えないわ……。
恐るべし、田上翡翠。
しかし樹理も黙ってはいない。


「だって田上さんに話しても分かんないことだもの。私たちの同期の話よ」

「同期?……あ、三浦さんのことですか?」

「違うわよ」


翡翠ちゃんがチラッと出した三浦くんは、確かに同期だけど。
同じ本店の企画開発部でゆる〜く向上心を持つことなくまったり仕事をしている男だ。


「え〜、じゃあ誰のことですか?」


不満げな翡翠ちゃんの瞳が、キョロキョロと動いて私たちの答えを催促している。
これは答えない限り、お弁当を食べている間ずっと追求されるパターンだ。


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