アイ・ミス・ユー


その男の顔を見て、ピシッとその場に凍りついてしまった。
元彼の小野寺健也だったからだ。


「よぉ、お疲れ様」

「お疲れ様です」


明らかに私だけに向けられた挨拶だけれど、私以外の金子と今野くんが返事をする。


エレベーターが動き出すと同時に、健也がしゃべり出す。


「結、お前のところの木製の食器ひと揃え5組ずつ使いたいんだけど、あとでうちの部まで持ってきてくれない?」

「……それは、販売部に言ってくださればすぐに対応すると思いますので」

「つれないなぁ、こうして会ったからお願いしてるのに。連絡するの面倒だからお前やってよ。な、よろしく頼むわ。どうせ暇だろ」


出た、健也節。
断れない雰囲気を出す天才。
神様仏様俺様の真骨頂。


このなりふり構わない感じで部下を使って若くして部長職までのし上がったと言っても過言ではない。


これ以上絡むのも嫌なので「分かりました」と返事をしようとしたら。
後ろから金子に遮られた。


「申し訳ありませんが、それは販促部の仕事ではありません」


聞き間違いかと思って振り向くと、穏やかな笑みを浮かべた金子がまっすぐに健也を見ていた。
ついでに言うと、隣の今野くんがビックリ眼で金子をガン見している。

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